トピックス
2026/11/05

親の預金が兄弟に引き出されていた|相続の使途不明金・使い込みの調べ方と取り戻し方

この記事のポイント

  • 相続人は一人でも、亡くなった親の口座の取引履歴の開示を金融機関に求められます。まずは引出しの時期・金額・使い道を確認しましょう。
  • 亡くなった後・遺産分割前の引出しは、引き出した相続人以外の相続人全員の同意により、遺産分割の中で精算できる場合があります。
  • 生前の使い込みは、相続人全員が合意すれば遺産分割の中で解決できる場合があります。争いが解消しない場合は、別途、民事訴訟などを検討します。

死後の引出しに関する上記の制度(民法906条の2)は、2019年7月1日以降に開始した相続に適用されます。

親と同居していた兄が通帳を管理していて、亡くなった後に確認したら、預金がほとんど残っていなかった。――相続のご相談で、非常に多いのがこうした「使途不明金」「使い込み」の問題です。

大切なのは、感情的に相手を責める前に、まず事実を確認することです。この記事では、使途不明金の調べ方と、取り戻すための手続を、川崎の弁護士が解説します。

まずは取引履歴を取り寄せる

相続人は、他の相続人の同意がなくても、単独で、亡くなった方の口座の取引履歴の開示を金融機関に求めることができます(最高裁平成21年1月22日判決)。

取り寄せるときのポイントは次のとおりです。

  • 期間:亡くなる前の5〜10年程度を目安に、引き出しが増えた時期を中心に確認する
  • 必要書類:亡くなった方の戸籍(除籍)謄本、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本、本人確認書類など(金融機関によって異なります)
  • あわせて集めたい資料:介護施設や病院の記録(入院中・入所中にATMで引き出せたはずがない、などを確認するため)、介護認定の資料(本人が自分で判断できる状態だったかを確認するため)

取引履歴を見て、「引き出しの日付・金額・場所」と「親の生活状況」を突き合わせると、不自然な引き出しが浮かび上がることがあります。

生前の引き出しと、死後の引き出しで扱いが違う

預金が引き出されたのが、親が亡くなる前か、亡くなった後かによって、解決方法が異なります。

引出しの時期 遺産分割での扱い 主な解決方法
亡くなった後・遺産分割前 引き出した相続人が誰か確定していれば、その人以外の相続人全員の同意により、引き出された預金を分割時にも遺産として存在するものとみなせます(民法906条の2)。 遺産分割の協議・調停・審判。引き出した人や金額などに争いがある場合は、別途、民事訴訟などが必要になることもあります。
生前 使い込まれた預金や返還請求権は、原則として遺産分割の対象外です。ただし、相続人全員が合意すれば、遺産分割の中でまとめて扱える場合があります。 相続人全員の合意による協議・調停など。合意できない場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求による民事訴訟などを検討します。

死後の引出しについては、引き出されたお金が遺産として残っているものとみなして、引き出した人の取得分として計上し、残る遺産の配分や代償金で精算します。引き出された金額が、そのまま口座に戻るという意味ではありません。

民法906条の2は、2019年7月1日以降に開始した相続に適用されます。相続開始とは、亡くなった時点をいいます。

生前の引出しでは、引き出した人が認めるだけでなく、相続人全員が遺産分割の中で扱うことに合意できるかも重要です。生活費や介護費に適切に使われたお金、本人の意思による有効な贈与などは、使い込みと同じには扱えません。

なお、亡くなった後でも、葬儀費用や当面の生活費のために、法律で認められた範囲で預金を払い戻す制度(預貯金の仮払い制度)があります。この制度で正当に払い戻された分は、使い込みとは区別して扱われます。

使途不明金を取り戻す手続の流れ

  1. 取引履歴を取り寄せる
    金融機関から取引履歴を取り寄せ、引出しの日付・金額・場所などを整理します。親の入院や介護の状況など、当時の生活状況が分かる資料も確認します。
  2. 引出しの理由と使い道を確認する
    口座を管理していた相続人などに説明を求め、領収書や請求書などの資料と照合します。引出しがあるというだけで使い込みと決めつけず、事実を確認することが大切です。
  3. 遺産分割の中での精算を検討する
    生前の使い込みは、相続人全員が合意すれば、遺産分割の中でまとめて解決できる場合があります。死後・遺産分割前の引出しは、民法906条の2の条件を満たせば、引き出した人の同意がなくても精算を進められます。
  4. 必要に応じて民事訴訟などで請求する
    話合いで解決できない場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求などを検討します。訴訟の提出先は、原則として請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超えるなら地方裁判所です。

亡くなった後の引き出しでも、相手が「自分は引き出していない」と争う場合は、その点を訴訟で確定させる必要が生じることがあります。家庭裁判所と地方裁判所のどちらで、どの順番で争うかの見極めが、解決までの期間と結果を大きく左右します。

当支店には、東京高等裁判所で判事を務め、遺産分割などの家事審判の抗告審を数多く担当してきた弁護士が在籍しています。家庭裁判所の手続で扱える範囲と、訴訟に切り分けるべき範囲を踏まえて、全体の進め方を設計します(審判と即時抗告の流れ)。

よくある反論と、そのために必要な証拠

使途不明金の争いでは、相手から次のような反論が出ることがよくあります。

相手の反論 確認すべき点・証拠
親に頼まれて引き出し、親に渡した 親が自分で判断できる状態だったか(介護認定の記録など)、親の生活費として妥当な金額か
親の生活費・介護費・医療費に使った 領収書、施設や病院の請求書、親の生活水準に照らして合理的な金額か
親から贈与を受けた 贈与契約書や親の意思を示す資料。贈与が認められても、特別受益として相続分の調整や遺留分の問題になり得る

生前の贈与と認められた場合でも、それで終わりではありません。贈与は特別受益として遺産分割で考慮されることがあり、遺言で他の相続人の取り分がなくなっている場合は、遺留分侵害額請求の対象にもなり得ます(遺言で「兄に全財産」と書かれていたら|遺留分の請求と期限)。

また、引き出した預金が不動産の購入資金や住宅ローンの返済に使われていたケースもあります。お金の流れを追い、不動産の評価も含めて検討することが必要です。

請求には時効がある

使途不明金の返還を求める権利には、時効があります。現行法の原則は、次のとおりです。

請求の根拠 時効期間の原則
不当利得返還請求 権利を行使できることを知った時から5年、または、権利を行使できる時から10年。いずれかの期間が経過すると、時効が問題になります。
不法行為による損害賠償請求 損害および加害者を知った時から3年、または、不法行為の時から20年。いずれかの期間が経過すると、時効が問題になります。

どちらか好きな期間を選べるわけではありません。また、2020年4月1日の改正民法施行前後の適用関係や、いつから期間を数えるかは個別に確認する必要があります。親が亡くなった日から一律に数えるものではないため、気になる引出しが見つかったら早めにご相談ください。

川崎・鶴見・大田区の方が利用する裁判所

遺産分割調停の申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。当事者が合意した家庭裁判所に申し立てることもできます。

返還を求める民事訴訟は、原則として相手方の住所地を管轄する裁判所に起こします。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超えるなら地方裁判所が原則です。金銭の支払を求める訴訟では、請求する側の住所地の裁判所に起こせる場合もあります。

下表は、相手方の住所を基準にした通常の提出先の目安です。

相手方の住所 遺産分割調停 返還を求める民事訴訟
川崎市川崎区・幸区 横浜家庭裁判所 川崎支部 140万円超:横浜地方裁判所 川崎支部
140万円以下:川崎簡易裁判所
横浜市鶴見区 横浜家庭裁判所 本庁 140万円超:横浜地方裁判所 本庁
140万円以下:神奈川簡易裁判所
東京都大田区 東京家庭裁判所 本庁 140万円超:東京地方裁判所 本庁
140万円以下:東京簡易裁判所

請求の内容や当事者間の合意などにより提出先が異なることがあります。調停と訴訟では管轄の考え方も異なるため、申立ての前に確認しましょう。

ほかの相続手続の窓口は川崎・鶴見・大田区の相続、手続はどこの裁判所・法務局?で解説しています。

使途不明金の調査から、当支店にご相談ください

  • 取引履歴の取り寄せと分析から対応し、使い込みの可能性を一緒に整理
  • 家庭裁判所の遺産分割で調整するか、地方裁判所の訴訟に進むかを見極めて方針を設計
  • 東京高等裁判所で判事を務め、家事審判の抗告審を多数担当した弁護士が在籍
  • 不動産の購入資金などに流れたケースも、不動産案件の経験を生かして対応

詳しくは相続人の財産の使い込みのサポートもご覧ください。

よくある質問

Q. 兄が通帳を渡してくれません。取引履歴を調べることはできますか?
A. できます。相続人は単独で、金融機関に亡くなった方の口座の取引履歴の開示を求めることができます。兄の同意は必要ありません。

親が生きている間に引き出されたお金も、取り戻せますか?

無断で使い込まれた場合などは、返還を求められる可能性があります。相続人全員が合意すれば遺産分割の中でまとめて解決できる場合がありますが、争いが解消しない場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求による民事訴訟などを検討します。有効な贈与や、親の生活費・介護費として適切に使われたお金かどうかも確認が必要です。

Q. 兄は「親の介護費に使った」と言っています。
A. 介護費や医療費として合理的な支出であれば、使い込みには当たりません。領収書や施設の請求書と、引き出した金額・時期を照らし合わせて確認します。

使途不明金の請求には、期限がありますか?

はい。現行法では、不当利得返還請求は「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」が原則です。不法行為による損害賠償請求は「損害および加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」が原則で、いずれかの期間が経過すると時効が問題になります。2020年4月の改正前後の適用関係や起算点は個別に確認が必要です。親の死亡日から一律に数えるものではないため、早めにご相談ください。

虎ノ門法律経済事務所 川崎支店のご案内

  • 所在地:〒212-0013 神奈川県川崎市幸区堀川町580 ソリッドスクエア東館4階
  • 電話:044-201-7561
  • アクセス:JR川崎駅から徒歩5分(蒲田駅・鶴見駅からJR京浜東北線で1駅)
  • 初回相談:60分無料(平日夜間・土曜日も事前予約で対応)
  • お問い合わせ・ご相談予約はこちら / 弁護士費用

監修:弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所 川崎支店 支店長 弁護士 我妻耕平(神奈川県弁護士会)

更新日:2026年10月20日(法令・制度は更新日時点の情報に基づきます)

© 弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所 川崎支店