「亡くなった父は大田区、自分は川崎市幸区、兄は横浜市鶴見区に住んでいる」――多摩川を挟んで生活圏がつながるこの地域では、相続人や実家が神奈川県と東京都にまたがることが珍しくありません。
ところが、相続の手続は種類ごとに窓口が異なり、県境をまたぐと家庭裁判所も法務局も変わります。窓口を間違えると、相続放棄の期限が迫るなかで書類の出し直しになることもあります。
このコラムでは、川崎区・幸区・鶴見区・大田区にお住まいの方向けに、手続ごとの窓口を早見表で整理し、県境をまたぐ相続で注意すべき点を弁護士が解説します。
まず確認すること
・亡くなった方の最後の住所:住民票の除票や戸籍の附票で確認します。相続放棄や遺言書の検認などの申立先は、これを基準に決まります。
・必要な手続:相続放棄、遺言書の検認、遺産分割、相続登記のうち、ご自身に関係するものを確認します。すべての手続が必要になるわけではありません。
・期限:相続放棄は原則として自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内、相続登記は相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内(2024年4月1日より前に相続による取得を知った未登記不動産は原則2027年3月31日まで)です。
目次
相続手続の窓口は「誰の、どこの住所か」で決まる
相続の窓口を決める基準は、大きく分けて次の3つです。どの手続がどの基準によるのかを押さえておけば、迷うことはほとんどなくなります。
- 亡くなった方の最後の住所地:相続放棄、遺言書の検認、遺産分割の審判など、家庭裁判所の多くの手続はこの基準です。
- 相手方の住所地:遺産分割調停は、話合いの相手方となる相続人のうち一人の住所地にある家庭裁判所に申し立てるのが原則です。
- 不動産の所在地:相続登記(不動産の名義変更)は、不動産がある場所を管轄する法務局で行います。
なお、「最後の住所地」は、亡くなった方の住民票の除票や戸籍の附票で確認します。施設への入所などで、実際に暮らしていた場所と住民票上の住所が異なる場合は、どちらを基準にするか事前に確認しておくと安心です。
【早見表】川崎区・幸区・鶴見区・大田区の家庭裁判所と法務局
4つの区だけで、家庭裁判所は3か所、法務局も3か所に分かれます。
| お住まい・不動産の所在地 | 家庭裁判所 | 法務局 |
|---|---|---|
| 川崎市川崎区・幸区 | 横浜家庭裁判所 川崎支部 | 横浜地方法務局 川崎支局 |
| 横浜市鶴見区 | 横浜家庭裁判所(本庁) | 横浜地方法務局 神奈川出張所 |
| 東京都大田区 | 東京家庭裁判所(本庁) | 東京法務局 城南出張所 |
所在地
- 横浜家庭裁判所 川崎支部:川崎市川崎区富士見1-1-3
- 横浜家庭裁判所(本庁):横浜市中区寿町1-2
- 東京家庭裁判所(本庁):東京都千代田区霞が関1-1-2
- 東京法務局 城南出張所:東京都大田区鵜の木2-9-15
同じ川崎市内でも、法務局は川崎区・幸区・中原区が川崎支局、高津区・宮前区・多摩区・麻生区が麻生出張所の管轄です。家庭裁判所は川崎市全域が川崎支部の管轄になります。
窓口が分かっても、それだけで手続が進むとは限りません。相続放棄の期限が迫っている、他の相続人と話合いができない、遺産に不動産が含まれていて分け方が決まらない、といった場合は、窓口を調べるより先に弁護士にご相談いただくのが近道です(弁護士に相談するタイミングもご覧ください)。
手続ごとの注意点
相続放棄:亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所へ
相続放棄は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述します。相続人ご自身の住所ではない点に注意してください。
たとえば、お父様が大田区にお住まいで、ご自身が幸区にお住まいの場合、申述先は横浜家庭裁判所川崎支部ではなく東京家庭裁判所です。
期限は原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内です。借金の有無の調査に時間がかかる場合は、期限内に家庭裁判所へ期間の延長を申し立てることもできます(相続放棄のサポート)。
遺言書の検認:遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ
自宅などで手書きの遺言書(自筆証書遺言)が見つかった場合は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所で検認(遺言書の状態を確認し、改ざんを防ぐ手続)を受けます。封印のある遺言書は、自分で開封せずに検認を申し立ててください。公正証書遺言と、法務局に保管されていた自筆証書遺言は、検認は不要です。
検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。遺言の内容が特定の相続人に偏っている場合は、他の相続人の遺留分(法律で保障された最低限の取り分)が問題になります。当支店には、遺留分の実務を解説した専門書『遺留分の法律と税務』(商事法務)を共著した弁護士が在籍しています。
遺留分の割合や請求の期限(相続の開始と遺留分を侵害する遺言や贈与があったことを知った時から1年)は、遺言で「兄に全財産」と書かれていたら|遺留分の請求と期限で詳しく解説しています。
相続登記:不動産の所在地の法務局へ
相続登記は、不動産がある場所を管轄する法務局に申請します。相続人が川崎市に住んでいても、実家が大田区にあれば、申請先は東京法務局城南出張所です。窓口に出向かず、郵送やオンラインで申請することもできます。
2024年4月から相続登記は義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。2024年4月1日より前に相続による取得を知った未登記不動産は、原則として2027年3月31日までに申請が必要です。2024年4月1日以降に相続による取得を知った場合は、その日から3年以内です。正当な理由なく怠ると過料(行政上の制裁金)の対象になり得ます(詳しくは相続登記の期限は2027年3月31日までをご覧ください)。
相続手続で使う法定相続情報一覧図(相続関係を法務局が証明する書面)は、①亡くなった方の本籍地、②最後の住所地、③申出人の住所地、④亡くなった方名義の不動産の所在地のいずれかの法務局で取得できます。
遺産分割調停:相手方の住所地の家庭裁判所へ
相続人同士の話合い(遺産分割協議)がまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。申立先は、相手方となる相続人のうち一人の住所地の家庭裁判所か、当事者全員が合意して決めた家庭裁判所です。
たとえば、ご自身が幸区、お兄様が鶴見区にお住まいなら、原則として横浜家庭裁判所(本庁)に申し立てます。遠方の家庭裁判所でも、電話会議やウェブ会議で期日に参加できる場合があります。
調停で合意できないと審判に移り、裁判官が分け方を決めます。審判に不服がある場合は高等裁判所に即時抗告(不服申立て)ができ、横浜家庭裁判所・東京家庭裁判所の審判は、いずれも東京高等裁判所が審理します。
図1 遺産分割の手続の流れ(どの家庭裁判所の審判も、不服申立ては東京高裁が審理)
相続人同士の話合い
調停の申立先は原則として相手方の住所地の家裁。川崎区・幸区=横浜家裁川崎支部/鶴見区=横浜家裁(本庁)/大田区=東京家裁(本庁)
抗告審(審判への不服申立て)を審理
当支店には、東京高等裁判所で判事を務め、家事審判の抗告審を数多く担当してきた弁護士が在籍しています。調停の段階から審判・抗告審での判断の見通しを踏まえ、たとえば次のような形で手続を進めます。
- 主張を争点ごとに整理し、裁判所が判断の根拠にしやすい資料(通帳の取引履歴、介護の記録、不動産の査定書など)をそろえて提出します。
- 調停案を受け入れるか、審判に進むかを決めるときに、審判になった場合の見通しを具体的にご説明します。
- 審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に即時抗告をすべきかどうかを、抗告審でどのような点が問題になりやすいかを踏まえて検討します。
審判と即時抗告の流れは、遺産分割調停がまとまらないとどうなる?審判と即時抗告で詳しく解説しています。
神奈川と東京にまたがる相続でよくある3つのつまずき
1. 親が住民票を施設に移していた
「実家は大田区だから東京家裁」と考えていたところ、亡くなる前に川崎市内の施設へ住民票を移していた、というケースは少なくありません。この場合、相続放棄や検認の申立先は横浜家庭裁判所川崎支部になります。手続の前に、住民票の除票で最後の住所地を必ず確認してください。
2. 手続ごとに窓口がばらばらになる
お父様の最後の住所地と実家が大田区、ご自身が幸区、お兄様が鶴見区という場合、利用する手続によって、窓口は東京家裁(相続放棄)、横浜家裁(本庁、遺産分割調停)、東京法務局城南出張所(相続登記)の3か所に分かれます(図2)。もっとも、これらの手続をすべて行うわけではありません。たとえば相続放棄をした人は、遺産分割や相続登記には関わりません。ご自身にどの手続が必要かを最初に整理しておくことが大切です。
図2 県境をまたぐ相続で、手続ごとの窓口が分かれる例(父=大田区・実家も大田区/本人=川崎市幸区/兄=横浜市鶴見区)
| 手続 | 基準となる住所 | 窓口 |
|---|---|---|
| 相続放棄・遺言書の検認 | 父の最後の住所地(大田区) | 東京家庭裁判所(本庁) |
| 遺産分割調停(本人が申立て) | 相手方=兄の住所地(鶴見区) | 横浜家庭裁判所(本庁) |
| 相続登記(実家の名義変更) | 不動産の所在地(大田区) | 東京法務局 城南出張所 |
※図2は、それぞれの手続を利用する場合の窓口を比べたものです。すべての手続を順番に行う必要があるという意味ではありません。
3. 実家が共有名義や借地になっている
遺産に不動産が含まれると、評価額や「誰が取得して、誰に代償金を払うか」「売却して分けるか」で意見が対立しやすくなります。実家が既に兄弟の共有名義になっていたり、借地の上に建っていたりすると、遺産分割だけでなく、共有関係の解消や地主との交渉まで視野に入れる必要があります。
当事務所は、もともと不動産に関する案件を数多く扱ってきた事務所で、その経験から不動産を含む相続のご相談も多くお受けしています。共有物分割や借地権の扱いまで見通したうえで、遺産分割の進め方をご提案します。
共有名義の解消方法や、借地の実家を相続したときの地主との関係は、実家が兄弟の共有名義・借地のときの相続で詳しく解説しています。
弁護士に相談するタイミングと、依頼すると任せられること
次のような場合は、早めに弁護士へご相談ください。
- 相続放棄の期限(3か月)が近づいている、または借金の有無が分からない
- 他の相続人が話合いに応じない、連絡が取れない
- 遺言の内容に納得できない、遺産の使い込みが疑われる(使途不明金の調べ方)
- 遺産に不動産(特に共有名義・借地・賃貸物件)が含まれている
弁護士にご依頼いただくと、たとえば次のことをお任せいただけます。
- 戸籍の収集による相続人の調査、預貯金・不動産などの遺産の調査
- 他の相続人との連絡・交渉の窓口(ご自身が直接やり取りする負担がなくなります)
- 遺産分割協議書や、家庭裁判所に出す申立書・主張書面の作成
- 調停・審判の期日への出席と、相続放棄などの期限の管理
- 税理士・司法書士と連携した、相続税申告や相続登記の手配
初回相談では、ご依頼いただく場合の進め方と費用の見通しもご説明します。ご依頼をおすすめしない場合は、その旨を率直にお伝えします。
よくある質問
Q. 相続放棄は、自分が住んでいる地域の家庭裁判所でもできますか?
A. 申述先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。ご自身の住所地を基準に選ぶことはできません。郵送での申述も可能ですが、審理のために出頭を求められる場合があります。
Q. 兄は大田区、私は川崎市に住んでいます。遺産分割調停はどこに申し立てますか?
A. あなたが申し立てる場合、原則として相手方であるお兄様の住所地を管轄する東京家庭裁判所です。お兄様と合意できれば、横浜家庭裁判所川崎支部に申し立てることもできます。
Q. 大田区にある実家の相続登記は、川崎の法務局でできますか?
A. 管轄は不動産の所在地を担当する東京法務局城南出張所です。ただし、郵送やオンラインで申請できるため、必ずしも窓口に行く必要はありません。
※本記事の管轄・所在地は2026年10月時点の各裁判所・法務局の公表情報に基づきます。手続の際は最新情報をご確認ください。
虎ノ門法律経済事務所 川崎支店のご案内
- 所在地:〒212-0013 神奈川県川崎市幸区堀川町580 ソリッドスクエア東館4階
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監修:弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所 川崎支店 支店長 弁護士 我妻耕平(神奈川県弁護士会)
更新日:2026年10月20日(法令・制度は更新日時点の情報に基づきます)